判例に基づき、社会通念で判定することが原則
さて、アフィリエイトなどのネットビジネスの収入について確定申告する場合は事業所得又は雑所得として申告するとお伝えしました。
さらに、所得税基本通達35-2に基づいて判断することになるということでした。
また、今でも原則としては、判例に基づいて社会通念で判定すべきとされていることについても触れました。
ここでは、その原則的な考え方である判例に基づき社会通念で判定することについて説明していきます。
事業所得における事業性とは
まず、ある所得が事業所得に該当するためには事業性があると認められる必要があります。
そうすると事業性とは一体何なのかということが問題になります。
この点について判例などでは、「事業所得である限り、少なくとも自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずるという性質を有していなければならないと解される。」とされています。
さらに、この点について次のように補足されています。
「事業性を認定するについて、事業所の設置、人的物的要素が結合した経済的組織体の存在することは、必ずしも必要ではないし、また、その者の本来の業務、職業としてなされている場合であると、副業としてなされている場合であるとを問わない。
しかしながら、営利を目的として継続的に行われる事業であると認められるためには、通例、事業所が設置され、人的物的要素が結合した経済的組織体を有し、また、主として本業として営まれるものであるから、他に特別の事情がない限り、事業所や経済的組織体の有無、本業であるかどうかは、事業性を認定するうえで重要な要素となることはいうまでもないし、継続的な営利事業というためには、継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性があることが必要であることも、当然のことに属する。」
以上のことから、事業所得における事業性について箇条書きでまとめると次のようになるといえます。
・一定程度の安定した収益を期待できるかどうか
・自己の負担のもとに相当の物的、人的設備を有するかどうか
・当該業務が自己の計算と危険において独立して営まれているかどうか
・社会的地位が認められるかどうか(≒本業であるか、副業であるか)
アフィリエイトなどのネットビジネスに関する場合
それでは、実際にアフィリエイトやネットビジネスの収入がある方について、これらの点に当てはまるかどうかを検討してみましょう。
・一定程度の安定した収益を期待できるかどうかという点について
この点については、毎年一定以上のアフィリエイトなどのネットビジネスの収入を得られているかどうか、またその金額が乱高下しないかということが重要になります。
まず、一定以上については、その収入だけで生活していくとしたら十分といえるかどうかということがひとつの目安になると思われます。
次に安定の程度ですが、毎月という短い期間で安定している必要はないと思います。
例えば、海の家や季節性の商品を扱っている事業者のように毎月の売上げに波はあっても、年間の売上げでは、毎年安定するという場合でも事業性は認められるからです。
さらに安定の程度について、毎年の売上が右肩上がりで増えていく分にはまったく問題はないと思います。
それは単純に事業が順調に成長していっている証拠だといえるからです。
一方、売上げが急激に落ち込む年がある場合は要注意です。
その収入だけで生活していくには十分といえる水準を下回るときはなおさらです。
そのことをもって、安定性を欠くとして事業性を否認される可能性があるためです。
・自己の負担のもとに相当の物的、人的設備を有するかどうかという点について
これは、事業所や機械、器具備品などの物的設備と、従業員などの人的設備が一定以上の程度であるかどうかということを意味しています。
ネットビジネスの場合、この点を満たすことはほとんどないと思われます。
まず、物的設備について考えてみましょう。
例えばアフィリエイトブログを運営するために所有している物的設備といえば、一般的にコンピューター関連機器やインターネット環境、参考書籍くらいしかないと思います。
事業所については、事務所をわざわざ借りたりせずにご自宅で作業されていますよね。
つまり何が言いたいかというと、アフィリエイトなどのネットビジネス収入に対応する物的設備の程度では、一定以上の水準にあると認められるための積極的な根拠がないということです。
次に、人的設備についてです。
こちらもほとんどご自身の労力だけでアフィリエイトブログなどを運営しているという方ばかりだと思います。
誰かの労力を借りるにしてもご家族の方に簡単なお手伝いをしてもらう程度でしょう。
ここでいう人的設備とは、従業員がいて給与を支払っているくらいのことが求められると理解してください。
そうすると、アフィリエイトなどのネットビジネスの収入に対応する人的設備はブログ運営者のご自身だけという場合が大半だといえるのではないでしょうか。
ただし、ひとりだけで稼いでいる事業者はたくさんいますし、事業所得としても認められています。
そのような意味では、事業を運営している者がご自身ひとりだけということをもって、人的設備がないから事業性も認められないとはいえないと考えられます。
以上のことから、ネットビジネス・アフィリエイト収入に関する物的設備、人的設備について検討すると、相当の物的設備を有するとはいえないとして事業性を否定されてしまう可能性が高いといえます。
・当該業務が自己の計算と危険において独立して営まれているかどうかという点について
「自己の計算と危険において独立して」とは、その事業において収入を得るために自身で経費などの支出を負担しているかどうか、自身の労力を割いているかどうか、収入が少なかったり赤字だったり破産したりというリスクを自身で負っているかどうかという意味だとお考えください。
そして、この点については、アフィリエイトなどのネットビジネスを運営している方の多くが当てはまると思います。
無料ブログサービスなど、独自ドメイン以外でアフィリエイトサイトを運営している場合でも問題はないでしょう。
・社会的地位が認められるかどうか(≒本業であるか、副業であるか)という点について
こちらの点については、本業でアフィリエイトなどのネットビジネスをしている方が、主にそれによって生計を立てているという場合は、十分に当てはまるといえます。
一方、サラリーマンなどの方が副業で行っている場合は、なかなかこの点について認められないのが実情でした。
その理由は、税務署など課税する側としては、副業を事業所得として申告することを認めてしまうと、本業の所得(給与所得など)と損益通算を認めることになるからです。
損益通算とは、事業所得などで赤字となった場合に、給与所得など他の所得からそのマイナスとなった分を控除できるという制度です。
この制度があるために、副業の場合は事業所得と認められないことがほとんどでした。
しかしながら、上記のとおり、「その者の本来の業務、職業としてなされている場合であると、副業としてなされている場合であるとを問わない」とされています。
ということは副業の場合でも事業性を認められる余地があるということです。
以上、アフィリエイトブログの運営などネットビジネスに関する事業性についてのポイントごとの検討でした。
事業所得として申告する場合はくれぐれも慎重に
さて、最終的に事業性が認められるかどうかを判断するにためには、所得税基本通達35-2及び上記の各ポイントを総合して検討する必要があります。
そして事業性が認められるとご自身で判断した場合は、事業所得として申告しても構わないと思います。
ただし、念を押しておきますが、赤字で他の所得と損益通算する場合は、事業所得としての申告は慎重に行うことをお勧めします。